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電源ユニットとマザーボードの相性とは?不具合の原因と選び方

こんにちは。LeanPower Lab運営者の「Masa」です。

自作PCのパーツを一点一点こだわり抜いて選んでいるとき、あるいは組み上がったPCの電源ボタンを祈るような気持ちで押したとき、「電源ユニットとマザーボードの相性が悪くて起動しなかったらどうしよう……」という不安が頭をよぎることはありませんか。実際にインターネットで検索してみると、ゲームのいいところで突然PCが落ちる現象や、耳障りなコイル鳴きに悩まされている事例、あるいは古い電源を活かそうとして変換ケーブルを噛ませたらシステムが不安定になったという話が山のように出てきます。これらの不具合は、本当にただの「運が悪かった」だけの相性問題なのでしょうか?それとも、そこには私たちが知っておくべき明確な技術的理由があるのでしょうか。

結論から言うと、相性と呼ばれる現象のほとんどには、電気工学的な裏付けが存在します。今回は、そんな電気的な規格の変遷や物理的な接続の仕組み、そして内部回路の挙動に基づいた「真実」をお話しします。

  • 相性と呼ばれる不具合の技術的な正体と発生メカニズム
  • PCが起動しない、落ちる等の症状別トラブルシューティング
  • 古い電源や変換ケーブルを使用する際のリスクと物理的限界
  • トラブルを回避するための正しい電源ユニット選定基準
目次

電源ユニットとマザーボードの相性が招く不具合と原因

「相性が悪い」という一言で片付けられがちなトラブルですが、実はそのほとんどに電気的、あるいは物理的な理由が存在します。「なんとなく調子が悪い」で済ませずに、まずは具体的にどのような症状が「相性」として現れるのか、その裏側にある技術的な原因を深掘りして見ていきましょう。

PCが起動しない原因は相性か物理的故障か

いざ電源ボタンを押してもPCがうんともすんとも言わない、あるいはファンが一瞬だけ「キュッ」と回ってすぐに止まってしまう。これは自作PCユーザーにとって最も心臓に悪い瞬間ですよね。マザーボード上のLEDは点灯している(通電はしている)のに起動プロセスに入らない場合、多くの人が「電源との相性が悪いのでは?」と疑います。しかし、この現象には「Power Good信号(PWR_OK)」のタイミング不一致という、非常に技術的な背景が隠されていることが多いのです。

マザーボードは、電源ユニットから電力が供給された瞬間に起動するわけではありません。電源ユニット側が「12V、5V、3.3Vの全ての電圧が正常値で安定しましたよ」という合図、すなわち「Power Good信号」をマザーボードに送って初めて、マザーボードはCPUへの給電を開始し、BIOS(UEFI)の読み込みをスタートさせます。ATXの規格では、電源投入からこの信号が出るまでの時間を「100ミリ秒〜500ミリ秒」と定めています。

ここで「相性」が発生します。設計が古い電源や、コンデンサが劣化して立ち上がりが遅くなった電源の場合、この信号が出るタイミングが遅れることがあります。逆に、安価な電源では電圧が安定する前にフライングで信号を出してしまうこともあります。マザーボード側の保護回路が厳格な場合、このタイミングのズレを「電源異常」と判断し、システム保護のために起動を拒否してしまうのです。これが「通電はするけど起動しない」という相性問題の正体の一つです。

物理的なショートを見落としていないか確認を

また、信号の話以前に、単純な物理的ミスが原因であることも少なくありません。例えば、マザーボードをケースに取り付ける際、不要な位置にスペーサー(台座)が残っていて、それがマザーボード裏面の回路と接触し、ショート(短絡)を起こしているケースです。この場合、電源ユニットの短絡保護機能(SCP)が瞬時に働き、電流を遮断します。これを相性だと勘違いして電源を買い替えても、原因は解決しません。

ここがポイント

「相性」を疑う前に、まずはケースの電源スイッチ(PWR_SW)のケーブルが正しいピンに刺さっているか確認してください。ドライバーの先端などでマザーボード上のPWR_SWピンを直接ショートさせて起動する場合は、電源やマザーボードではなく「ケースのスイッチ故障」です。

ゲーム中に落ちるトラブルと電源容量の関係

Webブラウジングや動画視聴中は全く問題ないのに、重い3Dゲームを始めた途端、あるいはゲームのロードが明けた瞬間に「プツン」と電源が落ちて再起動がかかる。ブルースクリーン(BSOD)も出ずに突然落ちる場合、これは典型的な「過渡応答(Transient Response)」の不一致です。ユーザーとしては「電源容量(ワット数)は計算上足りているはずなのに、なぜ?」と最も納得がいかないトラブルの一つでしょう。

実は、近年のハイエンドグラフィックボード(特にNVIDIA GeForce RTX 30/40シリーズやAMD Radeon RX 6000/7000シリーズ)は、カタログスペック上の消費電力(TDP/TBP)とは別に、100マイクロ秒から数ミリ秒という極めて短い時間に、定格の2倍から3倍にも達する凄まじい電力スパイク(瞬間的なピーク電流)を発生させます。これを専門用語で「Power Excursion(パワー・エクスカージョン)」と呼びます。

問題は、従来のATX 2.x以前の規格で設計された電源ユニットが、この「一瞬だけの爆発的な負荷」を想定していないことです。古い設計の過電流保護回路(OCP)は、このスパイクを「異常電流(ショート)」と誤検知してしまい、PCパーツを守るために安全装置を作動させてシステムを強制シャットダウンさせてしまいます。つまり、750Wや850Wといった十分な容量を持つ電源であっても、この「瞬発力」に対する追従性が低ければ、最新のGPUとの組み合わせで「相性問題」が発生してしまうのです。

また、1本のPCIeケーブルから分岐して2つのコネクタを接続する「デイジーチェーン接続」を行っている場合も、ケーブル1本あたりの電流許容量を超えてしまい、電圧降下が起きて不安定になる原因となります。高負荷時のシャットダウンを防ぐには、容量の大きさだけでなく、「瞬間的な負荷変動に耐えられる設計か」が重要になるのです。

(出典:Intel『Power Supply Design Guide for Desktop Platform Form Factors, Revision 3.0』

古い電源の流用と変換ケーブル使用のリスク

「前のPCで使っていた電源がまだ壊れていないし、もったいないから」といって、最新のマザーボードに流用しようとしていませんか?特に10年以上前の電源ユニットや、特殊なメーカー製PCから取り外した電源を使おうとする場合、コネクタの規格における致命的な「物理的相性」に直面する可能性があります。

かつての電源規格(ATX 1.x時代)では、マザーボードへのメイン電源コネクタは20ピンが主流でした。しかし、PCI Expressスロットへの電力供給が必要な現在のマザーボードは、24ピンが標準規格となっています。物理的には、20ピンのコネクタを24ピンのソケットに挿し込むことは可能な場合が多い(キー形状が合うように作られている)のですが、これは非常に危険な行為です。

なぜなら、残りの4ピン分(12V、5V、3.3V、GND)が供給されないことで、マザーボード上の回路に電力不足が生じるだけでなく、接続されている20本のピンに過度な電流が集中してしまうからです。結果として、コネクタ部分が異常発熱し、最悪の場合はプラスチックが溶けてマザーボードと固着してしまうリスクがあります。

SFX電源と延長ケーブルの落とし穴

また、最近流行りの小型で高性能なSFX電源を、変換ブラケットを使って大きなATXケース(ミドルタワーなど)に搭載する際も注意が必要です。SFX電源は小型ケース向けに設計されているため、付属のケーブル長が30cm〜45cm程度と非常に短く作られています。これを裏配線でマザーボードに届かせるために、安価な「延長ケーブル」を使用するユーザーが多いのですが、ここにも相性の罠があります。

注意点:接点抵抗の増加

ケーブルを延長するということは、物理的な接点(コネクタのつなぎ目)が増えることを意味します。電気的な接点が増えれば増えるほど「抵抗」が増加し、高負荷時に電圧降下(ドロップ)が発生しやすくなります。「延長ケーブルを挟んだら高負荷時に落ちるようになった」という事例は後を絶ちません。見た目を重視するあまり、システムの安定性を損なわないよう注意が必要です。

異音やコイル鳴き発生時の電圧制御の不適合

PCを起動していると、ケースの中から「ジー」「キーン」「チリチリ」といった異音(コイル鳴き)が聞こえてくることがあります。ファンが何かに当たっているような物理音ではなく、高周波の電子音である場合、それは電源ユニットとマザーボード、あるいはグラフィックボード間の「電圧制御方式の相性」が関係している可能性が高いです。

特に、数千円で購入できるような安価な電源ユニットで採用されている「グループ制御方式」の場合、構造上の限界が存在します。この方式は、内部のトランス(変圧器)で12V(CPU/GPU用)と5V(ストレージ/USB用)をまとめて制御しています。そのため、ゲーム中などでCPUやGPUが12Vの電力を大量に消費すると、電源ユニットは電圧を維持しようとして出力を上げますが、その際に連動して負荷の低い5V側の電圧まで必要以上に上がってしまうのです(クロスロード現象)。

この不安定な電圧変動がマザーボードやグラフィックボードに伝わると、基板上のVRM(電圧レギュレータモジュール)や積層セラミックコンデンサが微細な振動を起こします。これが人間の耳に「コイル鳴き」として聞こえるのです。「この電源は前のPCでは静かだったのに、新しいマザーボードにしたら鳴き出した」という場合、それは電源の故障ではなく、新しいパーツの激しい負荷変動に電源の制御方式が追いついていないという、明確な相性問題と言えます。

アイドル時のフリーズとCステートの関連性

高負荷時に落ちるのとは対照的に、「Webサイトを見ているだけ」や「PCを放置してトイレに行って戻ってきたらフリーズしていた」という、低負荷時特有の不可解な現象もあります。実はこれ、IntelのHaswell世代(第4世代Coreプロセッサ)以降に導入された高度な省電力機能「C6/C7ステート」が引き起こす相性問題である可能性が非常に高いです。

近年のCPUは省エネ性能が非常に高く、アイドル(待機)状態になると、12Vラインの消費電流をわずか0.05A(アンペア)という極小レベルまで低下させます。しかし、古い設計の電源ユニットや低品質なモデルは、これほど低い電流値での動作を想定していません。そのため、0.05Aという微弱な電流を「PCの電源が切れた(無負荷になった)」と勘違いして電力供給をストップしてしまったり、電圧制御が不安定になって定格範囲(±5%)を逸脱してしまったりするのです。

これが原因で、PCがスリープから復帰できなかったり、アイドル時に突然再起動がかかったりします。Windowsのイベントビューアーで「Kernel-Power 41(KP41)」という重大なエラーが記録されている場合、この低負荷時の相性問題が疑われます。

対策メモ

この症状が出た場合、マザーボードのBIOS(UEFI)設定に入り、「CPU C-States」を無効(Disabled)にするか、「Power Loading(ダミー負荷)」という機能を有効にすることで改善する場合があります。これは電源ユニットに対して意図的に無駄な負荷をかけ続けることで、誤作動を防ぐ設定です。

電源ユニットとマザーボードの相性を考慮した選び方

ここまで見てきた通り、私たちが「相性」と呼んでいる不具合の多くは、決して運任せのオカルトではなく、「規格の世代間ギャップ」や「回路設計の適合性」に起因する物理現象です。つまり、正しい知識を持って製品を選定すれば、これらの相性問題は論理的に回避できるということです。ここからは、トラブルを未然に防ぐための、プロレベルの選び方の基準を解説します。

ATX3.0規格と最新パーツへの対応状況

これからNVIDIA GeForce RTX 40シリーズなどの最新グラフィックボードを搭載したPCを組む、あるいはアップグレードする場合、電源ユニットは間違いなく「ATX 3.0(または最新のATX 3.1)」規格に準拠したモデルを選ぶべきです。

先ほど解説した「ゲーム中の突然死」を防ぐため、ATX 3.0規格の電源ユニットは、定格出力の200%(2倍)の電力スパイクが100マイクロ秒間続いても耐えられるよう、設計段階で義務付けられています。これにより、激しい負荷変動が起きてもOCP(過電流保護)が誤作動することなく、安定して電力を供給し続けることが可能です。

また、ATX 3.0対応電源は、マザーボードとの通信や起動プロセスに関しても最新のプロトコルに最適化されています。Power Good信号のタイミング制御も厳格化されているため、「通電するけど起動しない」といった基本的な相性トラブルに遭遇する確率は、古い規格の電源を使うよりも圧倒的に低くなります。マザーボードも電源も、同じ時代の規格に合わせて設計されたものを使うのが、最も確実な相性対策なのです。

おすすめメーカーより重要なOEM元の信頼性

皆さんは電源ユニットを選ぶとき、パッケージに印刷されたブランド名だけで判断していませんか?「有名なPCパーツメーカーのロゴが入っているから安心」と思うのは自然なことですが、実は多くの有名ブランドは、自社で電源ユニットを製造する工場を持っていません。彼らは設計や製造を専門の「OEMメーカー」に委託し、自社のラベルを貼って販売しているのです。

本当にマザーボードと相性の良い、高品質な電源を見極めるには、「中身を作っているのは一体誰なのか」を知ることが重要です。例えば、業界で「鉄板」とされるOEMメーカーには以下のような企業があります。

  • Seasonic(シーソニック): 台湾の老舗メーカー。電圧変動の少なさとリップルノイズの低さは世界最高峰。ASUSのハイエンドモデルやPhanteksなどの電源の中身もここが作っていることが多いです。
  • CWT (Channel Well Technology): CorsairやMSIなど、多くのメジャーブランドの主力製品を製造している大手。最新のデジタル制御回路に強く、GPUのスパイク耐性も優秀です。
  • Super Flower(スーパーフラワー): かつてEVGAの名機を作っていたOEM。現在は自社ブランド「Leadex」シリーズを展開しており、その安定性はエンスージアストから絶大な信頼を得ています。

日本では、オウルテック(Owltech)がSeasonicの正規代理店として、長期保証付きのOEM製品を展開しています。「日本製コンデンサ採用」というスペックも大切ですが、それ以上に「信頼できるOEMが作った回路設計か」という点が、マザーボードとの電気的な相性を左右するのです。

コネクタ形状の違いと誤接続による故障リスク

これは製品の「選び方」というより、組み立て時の「物理的相性」の話になりますが、自作PC初心者からベテランまで最も注意が必要なのが、コネクタの誤挿入です。特に致命的なのが、CPUに電力を供給する「EPS12Vケーブル」と、グラフィックボード用の「PCIe 8ピンケーブル」の取り扱いです。

この2つのコネクタは、どちらも「8ピン(4+4ピン、または6+2ピン)」であり、コネクタの樹脂パーツの形状が非常によく似ています。規格上は誤挿入できないように「キー(四角や台形の突起)」の配置が異なっているのですが、精度の低いコネクタや、ユーザーが強い力で無理やり押し込んだ場合、物理的に刺さってしまうことがあります。

しかし、EPS12VとPCIe電源は、12V(プラス)とGND(マイナス)の配線位置が完全に逆になっています。もし間違えて接続して電源を入れてしまうと、マザーボードのVRM回路やCPU、電源ユニット自体が一瞬でショートし、発火や焼損に至ります。これは「相性が悪い」で済まされる話ではなく、パーツの全損を意味します。

コネクタ名称 ピン構成 主な用途・接続先 注意点・見分け方
EPS12V 4+4ピンに分割可能 CPU給電
(マザーボード左上)
ケーブルに「CPU」と刻印があることが多い。PCIe用スロットには絶対に入れない。
PCIe Power 6+2ピンに分割可能 GPU給電
(グラフィックボード)
ケーブルに「PCIe」や「VGA」と刻印。6+2に分かれるのが特徴。
12VHPWR / 12V-2×6 12+4ピン 最新GPU給電
(RTX40シリーズ等)
「奥まで完全に挿し込む」ことが最重要。半挿しは発熱事故の原因。

Tierリストを活用した品質と適合性の判断

「スペック表を見てもOEMとかよく分からないし、どの電源が良いのか判断できない」という方は、世界中のPCハードウェアエンジニアやエンスージアストたちが検証データを持ち寄って作成しているデータベース「PSU Tier List(Cultists Network)」を参考にするのも一つの有効な手段です。

このリストは、単なるブランドの人気投票ではありません。専用の計測機器を使って、過渡応答特性(スパイクへの耐性)、リップルノイズ、保護回路(OCP/OPP)が正しく動作するかなどを厳密にテストし、電源ユニットをランク付けしています。

  • Tier A (High-end): RTX 4090などのハイエンドGPUやオーバークロックに耐えうる最高品質。マザーボードとの相性問題も極めて少ない。
  • Tier B (Mid-range): 一般的なゲーミングPC構成向け。十分な信頼性を持つ。
  • Tier C (Low-end): 事務用PCやエントリー構成向け。高負荷なゲームには不向き。
  • Tier E (Avoid): 構造に欠陥があるか、危険なため使用すべきではない製品。

高価なマザーボードやグラフィックボードを使用する場合は、迷わず「Tier A」または「Tier B」に分類されているモデルを選びましょう。電源はPCの心臓部です。「Tier E」のような質の悪い電源を使うことは、汚れた血液を全身に送るようなものであり、マザーボードの寿命を縮めたり、謎の相性トラブルを引き起こす最大の原因となります。

結論:電源ユニットとマザーボードの相性の真実

ここまで長らくお読みいただき、ありがとうございました。結論として、「電源ユニットとマザーボードの相性」の正体は、オカルト的な運勢や相性占いではなく、「規格世代の適合性」と「電気的品質(設計)のグレード」に他なりません。

「相性が悪い」と感じたときは、以下の3点を再確認してみてください。

  • 最新のGPUを使うなら、スパイク耐性のあるATX 3.0対応電源を選んでいるか?
  • アイドル時の安定性を求めるなら、Haswell以降に対応したDC-DC制御の電源を選んでいるか?
  • 物理的な接続ミス(EPSとPCIeの違いや、コネクタの半挿し)をしていないか?

これらを押さえておけば、相性トラブルに怯える必要はありません。ぜひ、ご自身のPC構成に合った「正しいパートナー」としての電源ユニットを選んであげてくださいね。なお、本記事の情報は執筆時点での一般的な技術情報に基づいています。正確な仕様や対応状況については、必ず各メーカーの公式サイトをご確認いただき、ご自身の環境での最終的な判断は、PCパーツショップの店員さんなど専門家にも相談してみることを強くおすすめします。

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